DESIGN
Management
01
マーケティング時代の終焉。
マーケティングは過去の手法となった。
企業側が推理推測で
問題を作り出し
都合のよい解決策を
顧客に当てはめるのは間違いである。
顧客の気付いていない潜在的ニーズを見出し
その解決策が世の中に必要であるかを問うべきである。
デザイナーと企業との
新しい関係性
「デザイン経営」。
問題解決のプロフェッショナルが、
企業経営の問題に
取り組む新しいスタイル。
デザイン(design)という言葉の訳によって、日本は世界から大きく引き離されてしまいました。日本では意匠、見てくれ、見栄えという意味に。世界では問題解決の手段として当たり前に捉えられています。
デザイナーが日常、意識的に実践している行為は問題解決そのものなのです。(ここで言うデザイナーとは日頃より問題解決に取り組んでいるデザイナーということです。)デザイナーのモノゴトへの考え方や仕事のプロセスを企業経営に取り入れることで、今まで全く見えていなかった問題に気づくことができ、本質的解決へと向かうことができるようになります。
従来のマーケティングは、顧客調査を行い、それを元に企業が企画した製品・サービスを企業の意図通りに伝え、届けること目的でした。ターゲットを決め、自社製品を競合と差別化し、理想的なポジショニングを実現するために4Pを設定する。その結果、企業の意図通りに消費者が反応してくれれば成功でした。しかし、それは企業主導であり、自己中心的でありました。当然、時代が変わり、通用しなくなりました。
欧米では「Design Thinking(デザイン思考)」と呼ばれ、IDEOやスタンフォード大学が牽引し、10年ほど前から活用されています。(後述)しかし、これはデザイナーの思考法を学びチームで実践する方法で採用する企業力が問われます。
また、Appleのスティーブ・ジョブズ氏が早くから「designer」と組んでいたことはよく知られています。正にこれこそ、「デザイン経営」ではないでしょうか。
日本では経済産業省・特許庁が2018年に「デザイン経営宣言」を公表し、日本企業の国際競争力を向上させようとしています。(後述)これもハードルがかなり高いものとなっています。ここで述べる「デザイン経営」は中小企業の問題解決にデザイナーが直接参加するもので、スピーディーに採り入れることができる唯一の方法となっています。
「デザイン経営」で重要な
4つの視点。
初心にかえる。
これには二つの意味があります。一つは、仕事や企業を始めたころの汚れない心にもどるということです。大抵の経営者は自分の夢やVisionをもって起業しています。その気持ちのなかには今、忘れている大切な要素が埋もれているかも知れません。初心にかえることで、それを思い出し再構築の起爆剤にしてはどうかということです。そしてもう一つは上記に似ていますが、すべての物事をリセットし、0ゼロの状態、つまり思い込みや決めつけ、先入観のない状態にするということです。いずれにしてもスタート地点に立つということは、問題を発見しやすくなるのです。どちらかというと、後者の「初心にかえる」ほうが万事に有効性があると思われます。
ユーザーの立場で。
相手の立場にたって、相手の気持ちになって、相手の心になって物事を考えようということです。これは一見、簡単そうにみえますが、そうはいきません。かなりの訓練と熟練を要します。何故か? それは人間は常に自分の立場で物事を判断するのが癖になっているからです。しかし、相手の立場に立つことによって、今まで知らなかったことが見えてきます。感じてくるのです。もし、それができたなら、本当にユーザーが気づいていなかった、今までになかった製品やサービスを発見することができるのです。相手の立場に立つことが出来れば、ユーザーの問題を見つけることができるのです。これが出来ない人々が大金を払ってマーケット調査をするのです。この場合、ユーザーは自分の知っていること、認識している範囲でしか答えませんし、質問の内容にも限界があります。このような調査からは潜在的な情報は絶対に見つかることはないのです。
ストーリーやメッセージを込める。
モノゴトにはストーリーやメッセージが必要です。勿論、サービスや製品もです。これがないものは語ることができません。ストーリーとは脚本の筋、物語です。物語性を持たせるためには、開発も今までとは違うスタンスで挑む必要があります。利益が上がる製品の開発などとふざけた目的には物語は生まれません。ユーザーが気づいていない、しかし、喜んでもらえるそんな商品開発には必ず、ストーリーが生まれて来るはずです。一例をあげると、バルミューダのトースターの生まれた切っ掛けです。野外でバーベキューの最中に雨が降ってきてパンが濡れてしまった。仕方なくその濡れたパンを焼いたらびっくりするほど美味しかった。そこから水蒸気を使ったトースターが生まれたといいます。その切っ掛けがあったとしても、問題意識をもって常にモノゴトにあたっていないとスルーしてしまいます。また、企業のメッセージ、理念や使命、Visionを商品開発に活かしてこそ、価値ある商品を継続的に創り出すことができます。お題目ではない企業理念、Vision、Missionを持ち合わせている必要があります。例えば、あのGoogleの使命は「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです。」Googleはこの使命をすべての商品に反映させていることは周知のことと思います。
社会に貢献する。
社会貢献。言葉では簡単ですが、これを本当に実行している企業は殆どありません。日本の企業の大半が偽物です。表向きの見せかけの社会貢献なんて、ユーザーは簡単に見抜いてしまいます。それは日常の行動に自然と表れてくるからです。本物の社会貢献は、寄付という行為に縛られません。その企業が提供するサービスや製品が世の中で本当に役だっているかを常に意識し、その製品の製造・流通過程で温暖化を促進していないか。リサイクルやリユース、長期間の修理体制などが組み込まれているか。あのAppleは「2030年までに、すべてカーボンニュートラルに。 ・デザインから・作り方・届け方・使われ方・リサイクルまで」と提言し実行しています。自分たちのことだけを考えている企業には絶対にこのようなことを実践することはできません。このような行動はいつの間にかユーザーの心まで届いているのです。
【参考】デザイン思考・
Design Thinking
デザイナーのプロセスから学ぶ、
イノベーティブな問題解決のための思考法。
「デザイン思考」は、アメリカのIDEO(Appleの初代マウスの開発を手掛けた・上記画像)の創始者 David Kelleyらが提唱したイノーベーションを起こすビジネスプロセスのこと。2005年にスタンフォード大学によって創設されたd.schoolによって世界的に広められました。問題や課題に対し、デザイナーが日常行うプロセスを一般の人々でもチームとして取り組むことを可能にした考え方です。着想、発案、実現といった3つのプロセスをチームで行き来して、革新的な問題解決を目指しています。Appleはその最たるデザイン思考の成功企業です。そのなかでもiPodは、社内の開発者と社外のデザイン専門家や心理学者、人間工学の専門家など、35名が共創し、約11ヶ月という短期間で開発が行われたと言われています。
デザイン思考に取り組むにはチームの教育や研修が必要になってきます。その点、わたしの提唱する「デザイン経営・デザイナー版」はデザイナーが直接経営にアプローチするため、どの企業でも活用でき、且つ近道といえます。しかし、取組内容が複雑で難題も多く何処でも取り組める施策ではないと思います。
【参考】経産省・特許庁の
「デザイン経営」宣言
2018年、経済産業省・特許庁は
「 デザイン経営」宣言を公表しました。
問題解決としてデザインを経営に取り入れることで国際競争力を高めようという取り組みである。
規模の大小を問わず、世界の有力企業が戦略の中心に据えているのがデザインである。一方、日本では経営者がデザインを有効な 経営手段と認識しておらず、グローバル競争環境での弱みとなっている。顧客が企業と接点を持つあらゆる体験に、その価値や意志を 徹底させ、それが一貫したメッセージとして伝わることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が生まれる。さらに、デザインは、イノベーションを実現する力になる。なぜか。デザインは、人々が気づかない ニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもあるからだ。供給側の思い込 みを排除し、対象に影響を与えないように観察する。そうして気づいた潜在的なニーズを、企業の価値と意志に照らし合わせる。誰のために何をしたい のかという原点に立ち返ることで、既存の事業に縛られずに、事業化を構想できる。(デザイン経営宣言より抜粋)
このように日本はデザインの本質を理解していないため、世界的に遅れをとってしまっているのです。特許庁のデザイン経営・宣言は、やっと国がデザインの本質に気がついたということでは評価できることと思います。